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2016.11.5 日本アーツビジネス学会 第2回大会 基調講演

20161105吉野社長ご講演写真(遠景)

「アトリエヨシノ 誕生から社会貢献活動まで」

株式会社アトリエヨシノ 代表取締役社長 吉野勝恵様

聞き手:小林白虎(日本アーツビジネス学会理事長)

1.事業化の背景~経営的側面から

小林: 相模湖の湖畔に本社を構えるアトリエヨシノは、バレエ衣装レンタル事業において圧倒的シェアを誇るビジネスを展開しているとお聞きしていますが、どのような背景や経緯で このようなビジネスをスタートしたのでしょうか?

吉野: まず、日本固有のバレエを取り巻く環境にフィットしたということを挙げるべきでしょう。日本国内のバレエ人口は40~50万人と言われていますが、国立バレエ団があるわ けでもなく、ほとんどの人たちは、アマチュア愛好者としてかかわっています。
この仕事を手掛けたのは、事業としてではありませんでした。最初は、高価なバレエ衣 装になかなか手が出せずステージ衣装に困っている愛好者たちを助けたいという気持ちで、 友人に声をかけられて、やり始めました。
私はかつて伊勢丹の服飾デザイナーをしていましたが、バレエのことはまったく知らな かったので、当時のバレエ衣装ではあり得ないような斬新なスタイルも積極的に導入しました。曲や雰囲気に合わせた衣装がもっとあっていいと考えたのです。これが評判を呼び 口コミで広がっていきました。また、デザイナー魂がはたらいて、安かろう悪かろうでは ない、きちんとしたものをつくることを心がけました。
一方、多くの方々の選択肢の巾が広がるようにと、サイズも3歳児用~LLまで豊富な ラインナップを用意するため、必死につくり続けました。当時は在庫を抱えるリスクなど は考えず、困っている人たちがいるんだから・・・という一心でした。

小林: 衣装の数を増やすとなれば、つくったり、メンテナンスしたりするスタッフも沢山必要になると思いますが、どのように組織化していったのですか。

吉野: 本格的に衣装レンタル事業にするため、1998年アトリエヨシノを会社設立しましたが、当初、社員は5、6名でした。そこからは、人を増やす→衣装が増える→お客さまも増えるという好循環が回って、現在は社員数が170名ほどになりました。男性は5名だけであとは女性です。そのほとんどは地域から雇用しています。
衣装は既に約8万着を数えるようになりました。当社は営業職を一人も置いていませんが、レンタル実績や売上げも継続的に伸び続けています。8万着の衣装、その一つひとつが最高の営業マンであると私は考えています。

2.バレエ業界の人材育成のために~教育的側面から

小林: 衣装レンタルの事業だけでなく、バレエ業界の人材育成支援にも力を入れていらっしゃるようですね。

吉野: バレエ教室の先生方には、共通の悩みがあるのです。それは、育てた子供たちが、日本国内で活躍する場がないということ。つまり、せっかく育てても、バレエを職業にするという夢はかなわないという悲しい現実です。

小林: 私は、バレエダンサー含めアーティストは基本的に「個人事業主」だと考えています。
専門領域のスペシャリストであるだけでなく、それで経済的にも自立できるように経営感 覚を身につけるべきだというのが、日本アーツビジネス学会を立ち上げることにした動機でもあります。吉野さんは、自社で実業団バレエの設立を考えられたこともあると聞きましたが。

吉野: そうなのです。実業団スポーツが成り立っているのだから、半日当社で働いて、半日バレエの練習に充てる、引退した後も当社で働いていくというようなモデルができないかと 考え、働きかけたのですが、当事者たちの賛同は得られませんでした。短いバレエ人生の 間はバレエだけに力を注ぎたいので、責任のある仕事はしたくないというのが理由でした。

小林: 他にバレエダンサーたちの自立のために、企業として支援していることはあるのですか?

吉野: 子供たちがステップアップできる場を提供したいと考え、たとえば、山梨県下のバレエ教室に通い、オーディションで選ばれた子供たちが、東京シティ・バレエ団と一緒に「眠 れる森の美女」を、河口湖ステラシアターで上演することを支援しました。プロダンサーの素晴らしい踊りに、子供たちは大いに触発されレベルの高いパフォーマンスを発揮する ことができました。

3.地域への貢献活動~文化政策的側面から

小林: 手前みそながら、当会では、経営・教育・文化政策を3本柱の領域として掲げていますが、今ご紹介いただいた事例は、教育のみならず、文化政策的なかかわりもあるお話です ね。

吉野: この試みだけでなく、当社の本拠地である相模湖でも「さがみ湖野外バレエフェスティバル」という文化事業を実施しました。これには、バレエを起爆剤にして、都心から近く、 自然も豊かなこの地域を盛り上げることに貢献したいという想いも込めています。
クラシックバレエを観たことのない人に、屋外で焼き鳥を手にビールを飲みながら気軽 に楽しんでいただくことで、バレエをもっとメジャーにしていきたいということがあります。このような文化事業を、一企業だけで支えるのは難しいので、神奈川県の協力も得な がら企画・運営にあたっています。

小林: 本日の吉野さんの基調講演は、まさに当会が目指すアーツビジネスの方向性と合致する最適な事例紹介になりました。たいへん素晴らしいお話をどうもありがとうございました!

以上

JSBA第2回大会_アトリエヨシノ吉野社長基調講演録