• Japan Society for the Business of the Arts

    2021年度 第1回 日本アーツビジネス学会presents 吉田隆夫氏講演会

    2021年11月13日(土)10:00 zoom講演会

    アーツビジネス学会 講演レジメ          2021年11月

    アーツビジネス学会 関西部会長          吉田隆夫

    講演題目   

    私の職業キャリアと教育文化環境

     ーもがき苦しんだ職業キャリアと自己実現ー

    長所や個性を仕事に結びつけるところに自己実現がある。自分の職業キャリアに沿って家庭や学校、職場での教育文化影響を振り返りながらの芸術文化に関する教育観。

    1 中学・高校時代

    生い立ち 町工場の長男。

    関心は自分の内面。漠然と将来を意識。現実的な将来の計画はなし。

    家庭では芸術や文化で溢れていた。長唄、歌舞伎、華道、茶道、謡曲、日本舞踊、観劇などの日本文化の多い家庭環境で育つ。家庭に置かれた本・家族の会話・親の趣味・出入りする人たちの会話、近所の生活環境に影響を受ける。この時期から耽美的な傾向が芽生える。

    2 大学時代

    目的意識のない大学進学。将来に対する漠然とした不安と希望が入り混じった時期。

    自分はいかなる人間で、何をしたらいいのか、いかに日々を過ごせばいいのかを自問する日々。将来への不安から逃避して読書や音楽に興味を持つ。

    町工場の経営を断念して自分自身の道を踏み出す。職業キャリアの自我が崩壊。職業選択の初期決定から脱皮して、自分自身による生き方を模索・探索。将来についてもがき苦しみ始める。

    大学卒業後は大学院へ進学。勉学ととも自己の人間形成を目指す。大学に就職して教育と研究の世界へ突入。キャリア教育の調査研究に従事。

    この時期サマセット・モームの「人間の絆」を読んで影響を受ける。小説のキーワードは、職業の選択。人生とは何か。生きる意味。人間にとって職業の選択は大きな課題。理想どおりの職業に従出来るとは限らない。妥協しながら折り合いをつけながら職業選択を模索。

    3 初期職業キャリアとしての大  学教員時代

    30を過ぎると職業の再選択は困難。職業選択の非可逆性。人生をやり直しは不可能で折り合いと妥協の連続。この時期は職業生活の確立・安定の段階。勤務先の大学の教育理念は「天職に生きる」。天職に生きるとは、自分を理解してその長所を仕事に結びつけて生き甲斐を感じること。教育学の分野での開発主義に相当。日本は明治入り暗記中心の注入主義。素質を引き出し完成させる開発主義の教育は少数派。

    開発主義の教育や経験主義の教育は、自己を理解して、長所や個性、興味や関心を把握して、それを伸ばすことを目指す教育観。児童期・思春期においては自分の持つ長所、才能、素質については無自覚。なんらかの方法でそれらを見出し伸ばすことが求められる。

    長所や個性を伸ばすことが自己実現にもつながる。海外では開発主義の教育に熱心。現在のロシアでも重視。当時の芦屋大学は、教育の面でソビエト連邦の教育に強い関心と興味を持つ。またソビエト連邦の高等教育省も勤務先の大学の教育に興味を持つ。1977年からソ連邦の高等教育省との交流が開始。当時のソ連は、数学、物理、音楽、芸術、バレエ、スポーツ分野で児童期に才能があれば、こういった特別学校に入学指させて早い時期から才能を引き出し、伸ばす教育を実施。

    日本でもこういった教育観が普及して早期から指導することが求められる。

    4 後期職業キャリアとしての大  学教員時代

    50代になると教育と研究に没頭。自分の才能の発揮に悩む。自己実現を欲求。自己実現とは長所や個性の発揮。自己実現の欲求の前提には自分の長所や個性を理解が必要。長所を引き出し、伸ばす努力が必要。長所を職業に結びつけて発揮することによって自己実現が可能。

    5 結び

    職業キャリアは、家庭・学校・職場の影響を強く受ける。またもがきと模索と折り合いと妥協の連続。家庭・学校・職場の教育文化的影響を受けながら自分の持つ長所や個性、素質を見いだし、長所、個性、素質を仕事や職業に結びつけて自己実現を求めた職業キャリア。

    芸術文化の分野においても児童期・思春期・青年期に素質、長所に気づかせて、その可能性を現実化して能動的な活動を促進させることを支援する重要性。

    職業の選択には多くの要因がある。素質・興味関心・長所・能力的適性・心理的適性・親の職業・親の希望・性格・価値観・偶然性・雇用情勢。人生の早い時期から幅広く経験して長所を見出し伸ばす。その長所を仕事に結びつける。仕事を通して長所や個性を発揮することによって自己実現に到達。それが理想の職業生活。